講座012

船舶の形象物について〜初級編〜

形象物の意味を知り 安全航行に役立てよう
船舶の形象物

船の世界において、その船舶の状態を他船に瞬時に周知するために状況に応じて「形象物」というものを掲げます。

皆様はこれらの形象物の中でどのくらい意味を知っていますか。

この中で実際に小型船舶が掲げるものは少ないですが、大型船舶が輻輳ふくそうしている海域で操船を行う方は特に、 形象物の意味を理解した上で安全航行に役立てるようにしましょう。

上記①〜④の形象物について1つひとつの意味や覚え方を解説していきます。

①の解説
②の解説
③の解説
④の解説

*ここで紹介している形象物の覚え方は筆者オリジナルですので助け舟程度に考えていただけたら幸いです。

① 錨泊中の船舶

出典: https://item.rakuten.co.jp/ssn/10008713/

【形状】
黒色球形形象物

【意味】
錨泊中(=アンカーを打ってその場に留まっている船舶)

【対象】
全長7m以上の船舶
但し、錨地・狭水道・航路その付近に錨泊する場合は7m未満でも掲げる義務あり

【解説】
形象物の中でも最も見かけやすくポピュラーなものになります。
黒色球形形象物は小型船舶(水上オートバイを除く)の法定備品として必ず船内に備え付けられているので、錨泊中───例えば投錨して釣りを行っている際など は他船が見やすい場所にこの形象物を掲げましょう。

【覚え方】
揚錨機(ウィンドラス)を使用する際やSWAT(アメリカ特殊部隊)やサバゲーなどで使用されるハンドサインにグー(握りこぶし)=止まれ、止めろという意味があります。
「球形=グー=止まる=錨泊中」 と関連付けると覚えやすいです。




② 機帆走中の船舶

出典: https://item.rakuten.co.jp/ssn/10003663/

【形状】
頂点下向きの黒色円すい形形象物

【意味】
機帆走中の船舶(航行中)
*機帆走…漢字の通り、関(エンジン)との両方を使用して航している状態。

【対象】
全長12m以上の船舶

【解説】
当該形象物は小型船舶の安全航行に関して非常に重要な意味を持ちます。

まず、海上衝突予防法第18条において
航行中の動力船は帆船の進路を避けなければならない」と定められております。
これは、「帆走中の帆船は容易に進路や速度を変えたりできないので、動力船が避けてあげましょう」という解釈になります。

これを踏まえた上で帆船(ヨット)の法令上の定義を見てみましょう。
帆船とは、「のみを用いて推進する船舶(海上衝突予防法 第3条 第3項)」と定義されています。

したがって、機帆走中の船舶は帆船にはならず、動力船と分類されます。
「機帆走中の帆船」というワードは法律上矛盾しているという訳ですね。

形象物を目印にして、帆船か機帆走中の船舶かを瞬時に判断してその後の自船の行動に役立てましょう。

ちなみに、帆のみを用いて航行している帆船は、帆自体が巨大な形象物になっているので特別な形象物は掲げなくてもOKです。

まとめると、動力船に乗船している際に帆船らしきものを見かけた場合、

円すい形形象物あり → 見合い関係に則って避航船か保持船か判断する。
円すい形形象物なし → 見合い関係に関係なく避航動作を取る。

と判断しましょう。 

【覚え方】
当該形象物は下矢印🔽に見えます。
上部の帆だけでなく、下部にある機関(エンジン)も使用している。とイメージすると覚えやすいです。




③ 漁ろう中の漁船

出典: https://okanuma.jp/business/equipment/

【形状】
黒色鼓形(つづみがた)形象物

【意味】
漁ろうに従事している船舶(トロール船に限る
*漁ろうに従事している…船舶の操縦性能を制限する網、なわその他の漁具を用いて漁獲を行っている状態

(海上衝突予防法 第3条 第4項)

【対象】
全ての船舶

【解説】
当該形象物を掲げている船舶(=当該船舶)を見かけた場合も②の帆船の時と同様に動力船の避航義務が課されます。

動力船に乗船中の場合は、当該船舶を見かけたら如何なる見合い関係であっても避航動作を取りましょう。

トロール船側に対しての注意事項として、
上記の優先範囲は飽くまで「漁ろうに従事している間のみ」となります。
漁場に向かう間、もしくは漁場から帰港する間などに当該形象物を掲げていると、警察官がパトカーのサイレンを鳴らして出勤しているようなものですので、やめましょう。

【覚え方】
この形象物そのものが魚のような形に見えますので、素直に「魚のマーク→漁ろうに従事している漁船」と覚えましょう。

cf.)トロール船以外の漁ろう船

トロール船以外に従事している漁ろう船に関しては、漁具を150m以上にわたって船外に出して作業している場合、船の全長に関係なく下記の形象物の掲示が必要になります。




*頂点上向きの黒色円すい形形象物は、漁具が出ている方向を表しています。

④ 曳航船

出典は こちら

【形状】
黒色ひし形形象物

【意味】
曳航中の船舶、被曳航中の船舶

*曳航…船が他の船や荷物などを引いて航行すること。(出典:Wikipedia)
    陸上で例えると、トレーラーのトラクターヘッドが曳航船、トレーラーの荷物が被曳航船というイメージです。

【対象】
曳航船の船尾部から被曳航船の最後尾までの長さが200mを超える場合に掲示の義務あり。
但し、曳航船の内、全長12m未満の船舶の場合は対象外となる。

【解説】
マリンレジャーを目的として小型船舶免許をお持ちの方に関しては基本的に掲げることのない形象物なので見慣れないものかもしれません。
港内で巨大船などを曳航しているタグボートが掲示しているのを見かける程度かと思います。
2隻の船舶の間を通過しようとしたら曳航索に引っかかってしまったということが無いよう、この形象物を掲げている船舶を見かけた場合はできる限り近づかないよう心がけましょう。

【覚え方】
ひし形は上下左右に引っ張られているような形状をしています。
「ひし形→引っ張られている→曳航船」といったように関連付けて覚えると覚えやすいと思います。






〈まとめ〉
本コラムでまずは基本的な船舶の形象物4種類を紹介いたしました。
基本的な事として「形象物を掲げている船舶にむやみに近寄らない」ことが重要ですが、
それを踏まえた上で、形象物の意味を知ることでその船舶の状態把握や自船の次の動作を瞬時に判断することが可能になります。

船舶交通に関する必要な知識を身に付けて安全で楽しいマリンライフにしましょう。

2022年3月 執筆 

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